京都市の考え方

X Cross Sector Kyoto (クロスセクター京都) 東さん

まちとしごと総合研究所 東さん

~X Cross Sector Kyoto(クロスセクター京都)/まちとしごと総合研究所 東信史さん

京都市 総合企画局総合政策室 SDGs・市民協働推進担当とSlow Innovation株式会社は、市民協働イノベーションエコシステムの構築・活用をめざした連携協定を結び、「市民協働イノベーションエコシステム調査」のプロジェクトを推進している。「持続可能なまちづくりを支える生態系(エコシステム)って何なんだろう?」「どうしたら、地域の未来をつくるイノベーションが次々と生まれてくるのだろう?」という問いのもと、京都を中心に市民協働やイノベーションに取り組んでいるさまざまな組織・人財にインタビューを行なっています。

今回は、「X Cross Sector Kyoto -“みんなごと”のまちづくり推進事業」など、一貫してまちづくりへの市民参加推進を行ってきた東 信史さんにお話を伺いました。

話し手: 東 信史(Nobufumi Higashi)
1985年生まれ。佐賀県出身京都在住。大学卒業後、㈱リクルートにてスクール事業の広報・経営戦略に関する企画営業に従事する。同時に、NPO法人である福岡テンジン大学やgreenbird等で企画コーディネーターを行う。2013年より、きょうとNPOセンターに参画。京都市未来まちづくり100人委員会運営本部や祇園祭ごみゼロ大作戦運営事務局をはじめ、京都の複数の大学でファシリテーションやコミュニケーション、広報をテーマに講師を務める。2015年4月より現職。和歌山県有田川町の”有田川という未来”、京都市の”みんなごとのまちづくり推進事業”や”宿泊施設と地域の連携事業”、など地域に住む方と事業者や大学、行政が共創を生み出していくためのプログラム設計/運営に取り組んでいる。
聞き手: 野村恭彦(Nomura Takahiko)|Slow Innovation株式会社 代表取締役
金沢工業大学(K.I.T.虎ノ門大学院)イノベーションマネジメント研究科 教授。博士(工学)。「渋谷をつなげる30人」を主宰し、5年目を迎える。昨年より京都拠点を立ち上げ、「京都をつなげる30人」は2年目の開催。企業・行政・NPOのクロスセクターでの「信頼のつながり」をつくり、「地域から社会を変える」イノベーションエコシステムの構築をめざして活動している。

今回は、京都で一貫した思想のもとにまちづくりに取り組まれている、まちとしごと総合研究所(以下まちごと総研)の東さんにお話を伺いました。市民協働エコシステムの観点から、東さんが考えるまちづくりのあり方や、ファストではなくスローな価値観も生まれてきている今まちづくりにおいて何を大切にするべきか、といったことをお伺いしました。

X Cross Sector Kyoto

東さん: X Cross Sector Kyotoは昨年からやらせていただいていて、まちごと総研が全体のプログラム運営とコーディネートをしています。もともと、まちごと総研自体が地域に住む方々が地域を好きになって地域の未来を考えてもらうことをしながら、自分たちの生業や良い関係性ができることを目指しているのでこういったプログラムをお手伝いしています。2つのプログラムがあります。

広く一般にまちづくりされている方々が入れるお宝バンクという京都市の枠組みがあります。そこに入っている方が広報、マネジメント、資金調達など必要なスキルを学べる公開講座をしています。スキルを学ぶだけじゃなくて、同じ悩みを持つ人たちが出会って、そこからできることを探せるような枠組みで運営しています。

もう一つは、半年間のセッションプログラム。地域の中で解決していきたい課題、持っているリソースを組み合わせて、周りの人に何ができるかを考えてもらうプログラムを運営させてもらってます。プログラムの中で大事にしていることは、地域がどんなことに困っているのかということと、参加される方が自分を見つめ直したり、周りとの対話の中で立ち位置の確認ができること。対話の中で周りの困っていることに気付いてやりたいなってなったときにサポート、伴走していくプログラムです。

野村: 活動している中でご自身が一番嬉しいなって思った出来事や、これが見たかったんだよねっていう光景があれば、教えてください

東さん: 一つのチームで、メディアに取り上げてもらったり、自主的に活動をしている、「家族会議レストラン」というところがあって、そこに思い出があります。カフェとかレストランを借りて、家族会議セットを準備して、食べながら、問いを投げかけ、お話をしてもらうことを予定していました。ただコロナになっちゃったので今はオンラインで参加してもらっています。

京北の活性化をしようと集まったチームだけど、対話の中で徐々にメンバーの皆さんが、ご結婚されていたりお子さんをお持ちだという事実が見え隠れしてきた。まちづくりと言っても家庭を蔑ろにして出ていくのでは意味がない。なので「家族と話せてますか?」と問いかけたところ皆さん一言ウッと詰まるようだった。

そこで自分自身の問題やモヤモヤに目を向けてみて、家族や夫婦の会話ってどうなっているかを調べてもらいました。自分の家の問題かと思っていたら、アンケート調査などしてみると、社会的な問題なのだということが見えてきた。自分たちの持ってるスペースなどのリソースで何かできないかということになった。当初思っていたところから、話すことで、見えてきた課題に取り組み、つながりからチームができた。このプロセスがすごいよかったなと思ってます。

野村: ありがとうございます。やるべきことと考えていたことから、自分たちのやりたいことへ変わったようなイメージですね。自分の問題を脇に置いて、社会課題から入りがちですよね。

東さん: 課題感として感じてるのは、京都市でもまちづくりプログラムとか、まちカフェなどが増えてきているのはいいんですが、取り組む課題に対してどこか他人ゴトになっていることがあるなと。楽しいからやり続けられるということならいいんだけど、よくないのは「せっかくやっているのに、なんでみんな協力してくれないんだ」となってしまうこと。うまくコーディネートしてあげないと。

野村: 自分ごとと社会ごとをどうつなげていくか、というところが一番重要なイメージですね。

東さん: 最初100人委員会というまちづくりプログラムをやってて、最初はのんびりやっているように見えて、ツールを提供して加速しようとしてしまったが、つながっていること自体に価値を感じているのを知ったんですよね。問題を解決することだけがメリットじゃないと感じ始めたのがこういうことの契機になってきたかなと。

誰かが声を上げたことからつながっていけるまちに

野村: 東さんからみて、京都のつくりたい街の形とか未来に見てみたい景色とかあれば教えてください。

東さん: 身の回りの人がこういうことに困っている、もう少し広げる方法はないか、と話している時、その人の良さや、見つけた視点を広げていくような、そういう人の関わりが増えるといいなと思います。誰かが思いついた、やりたいと思った、気になったことが、できるようになるまちに。

京都市の規模でいくと、人が多くつながりづらい面もあるなと思っています。

身近な人がこんなことやりたい、困ってる、ということをお互いに拾い上げていけるようなまちになったらいいなと思います。

八百屋の友達の話で、八百屋は見切り品とか捨てないといけないけど、世の中フードロスという問題もあるジレンマ。それならせっかくならプロジェクトにしてみませんかという話になり、テーマを掲げたら事業者の方々がつながり「さらえるキッチン」というプロジェクトができた。それがさらに発展して、いまQUESTIONにあるコミュニティキッチンにも携わられています。自分一人でしか考えていなかったものが、僕らとか京都市さんのネットワークを使って声を上げて形になっていくそういうものが増えたらいいなと思います。

野村: 東さん自身は触媒みたいになりたいイメージですか?

東さん: 個人個人の方と話してたら触媒になってた、という感じですね。つながりを作りたいと思っていたのではなく、個人の方々のいろんな話を聞く方が関心があった。

野村: 触媒になろうとしてるわけじゃないから、ただ興味あって聞いていて社会課題解決とか起きなくても満足なんですね。

プログラムを起点として関係性を生み、良い循環を

野村: この未来に見てみたい景色に向かって、X Cross Sector Kyotoがこれからどんなエコシステムになって欲しいかとか、これから繋がりたい外側のエコシステムがあればどんなところか、ご意見伺っていいですか?

東さん: 参加者がプログラムの良さを語り継いでくれたり、OBOGがまた参加する枠組みが増えていくとでいい循環が生まれるんじゃないかなって思ってます。

京都のまちなかでは、100人委員会は、今は参加したことがステータスで、「まちづくりしてるんですよ」って言ったら「私は前100人委員会に参加してたんですよ」って共通の認識として存在してる。

X Cross Sector Kyotoも、プログラムに参加した人が、よかったら行ってみたらどうですか、と外の人に伝えるコミュニティとして運営できたらいいな。その背景にお宝バンクが存在しているので、そこに応募してみることから始められて、他のプログラムに参加して循環が回っていったらいいなと。

2019年に比べると、オンラインで参加者や交流回数が増えたので、そこから循環が生まれるのもいいなと。

野村: 社会課題そのものに注目するというよりは社会課題に関心のある人に徹底的に注目して、その人が気づいたことをすごく大切にされている。だから社会課題のタグで見ていくのではなくて、人との出会いとか周りの人が紹介してくれることとか、あたたかいつながりを大事にしていると言うことでしょうか?

東さん: そうですね。そこのベースの関係性があれば、問題になる前に解決される、そもそも問題にならないのだろうなっていう感覚が強くあるので、そちらの方が重視しています。

野村: ありがとうございます。すごく明確な思想をお持ちで、お坊さん的な「なるようにもなります」って感じがいいですね。

「発展」ばかりの価値観を問い直す流れ

野村: ある意味で、今までで日本が成長してきた経済の仕組みは、人より優れてることとか競争に勝つことがうまくいくっていうパラダイムがあったじゃないですか。そうじゃないパラダイム、価値観は今後どうなっていくと思いますか?

東さん: 価値観として変わってきたな、とは思う。

「発展していかなければいけない」っていうようなキーワードは減ってきて、「本当にそれ(発展)でいいのか」といったキーワードが世の中に増えてきていますよね。10年前にはなかったようなキーワードに溢れている。少しずつ価値観としては変わってきているなと。

事業者の皆さんの価値観が変わってきているからこそ、この流れは生まれているのだろうし、そうすると金融機関も変わっていく。そして、NPOとか地域のための事業やられている方にも目が向けられてくる。

そのための仕組み作りとか、価値はこういうものだと伝えていく人が増えていくことで、やっぱりみんながこっちの価値観が正しかったんだなって思えることが願いとしてある。

だから仕組みづくりと価値観を持った人を増やしていかなければいけないんだなぁとは思います。

—価値観変えることが一番大事なんじゃなくて、繋がっていって対話が生まれていく中で気づけることが一番大事ということですね。先ほどから一貫していますね。

スローに思いの種火を大きくしていくこと

野村: こういったことを一生懸命やられるパッションの源泉はどこにありますか。周囲とは少し違った価値観を持って活動されてると思いますが、そこに至る源泉があれば教えていただきたいです。

東さん: 最初は企業で働いてる中で、会社のリソース資本を使いながらお客さんの課題解決をすることをしていた。でも利益にならないことはできなかったし、町の中の人たちのスキルや持ってるものを用いることによって課題は解決できるんだけど、それを案内したら売り上げが減るんだと。

対して、NPOの活動の中では、お客さんにはもっとこうしてあげたいねっていうのをチームで取り組めて、この方がより効率的で相手のためになるなと思った。こういう組織とかチームのあり方がいいんじゃないかって思ったのが10年くらいまえ。

そういうチームとか事業の作り方とかどうやったらいいんだろうな?っていうのが発端となってやってる。実際やらせていただいたのは、100人委員会から。まちの人がまちに馴染むように関わっていき、満たされるから周りの人にも関わっていくとか、関わること自体が面白くてその延長に誰かの何かを解決することとかできないかなと試行錯誤した7年。つまり発端は自分自身がお客さんを大事にすることで出てきた課題から。

野村: 思想から入ったというよりは、価値を生み出す時にみんなのリソースを集中させた方が効率的だと徹底させていったら、悟りを開いた感じなんですかね。

とはいえ、リクルートでゴリゴリやられてたわけですけど、それでも、スローにやる方が早い、周りの関係性の中でゆっくりやるほうがインパクトがでるのは早いって意味に聞こえました。どうしたら、早くなるか、とかありますか?

東さん: リクルートの時は、情報を提供して、お客さんの売り上げが上がって、こちらは広告収入を産むというモデルだった。やらせることで利益が出る。でもお客さんがやりきれないとそこで関係が終わってしまったり、広告に依存する事業にしてしまったりという反省があった。

スローとファストの視点でいくと、やっていく人のモチベをファストに上げるのではなくてスローに種火を大きくしていくことがいいんじゃないかなと思ったんですね。

野村: 市民も事業者として、みんなが自分の周りを良くしようと自走している状態が理想なのかもしれないですね。ありがとうございました。

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